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早期ガンで手術を受けても、最初から遺伝子でしかわからないような小さな転移があった人にとっては、治療してもしなくても寿命に変わりはありませんから、痛い思いをしただけ損をしたことになります。
同じ早期ガンでも、実際には広がる可能性がなく放置してもかまわなかったようなものがあるかもしれません。
この場合も、やはり医療によって経済的、肉体的に損失を被ったことになります。
もし、事前に1人1人の運命がわかるのであれば、数々の大規模調査で、検査や治療を受けたほうの人たちの寿命が短くなるという悲劇は起こらなかったはずです。
では、検査や治療を積極的に受けたほうがいいのでしょうか、それとも受けないほうがいいのでしょうか。
個人の運命が誰にも予測できない以上、その判断は確率に賭けるしかありません。
宝くじを買う場合は、損をする確率のほうが圧倒的に大きいことが最初からわかっていますから、安全を取って普通は小銭しか使いません。
ところが、ガン検診の場合は、損得の確率が五分五分か、または損をする確率のほうが少し高いのです。
しかも、宝くじは買わなければ損も得もしませんが、健康診断は受けなければ寿命が短くなるかもしれません。
受けたとしても、損をする可能性が同じくらいあるのですから、困ってしまいます。
病気のことはすっかり忘れて気楽で楽しい人生を過ごしたいという人は受けない、それでも医学を信じたいという人は受ける、という判断しかありません。
損得の確率次に、検査を受けてガンと診断された人が、手術を受けるかどうかの段階になって迷ったら、どうでしょうか。
大げさな言い方をすれば、その人は定期的に検査を受け続けてきたにもかかわらず今まで生き延びたのですから、運命の試練を部分的にパスしたことになります。
あとは、手術を受けることによって、損をするか得をするかという試練が残っていることになります。
しかし、手術だけを取り上げてみても、損得の確率がどれくらいになるかはわかりませんから、この人が治療を受けるべきか受けざるべきかは、判断できません。
可能性が五分五分なのではなく、判断の助けとなるデータがないのです。
このような人には、「検査を受けなければよかったのに」と申し上げるしかありません。
ガンであることを知らされてしまってから治療を受けないでおくのは、あれこれ心配が募り、かえって大きなストレスになるでしょうから、確率も少し変わってくるはずです。
人間、知っているのと知らないのとでは大違いという話の見本です。
なお、確率が五分五分という言葉を何回か使いましたが、意外とこれが誤解されています。
明日大地震が起こる確率は五分五分であるという人がいますが、この言い方は間違っています。
大地震は100年に1回くらいしか起こりませんから、明日起こる確率は○・○○○……パーセントなどという程度の小さなものです。
五分五分という確率は、2つに1つの出来事が両方とも同じ頻度で起こっている状態を指します。
クスリの評価とさじ加減クスリには、熱さましのように症状に合わせて短期間だけ使うものと、高血圧治療薬のように何年も続けて服用するものとがあります。
それぞれ、効き目の強さや副作用がかなり異なります。
また、もともと人間の体の中にあるホルモンや消化酵素などと、抗生物質のように化学的に合成して作り出したものという違いもあります。
誰が考えても、ホルモンや消化酵素にはなんとなく安心感があります。
このように、クスリにはいろいろな背景がありますので、一言でまとめてしまうわけにはいきません。
副作用や安全性を考える時には、頭の中で区別をしておかないと結論を誤ってしまいます。
クスリの評価では、さじ加減という言葉がしばしば問題になります。
医師の長い間の経験によって養われる専門家としての技能の1つです。
ある患者さんは、クスリで副作用が出やすく、量を少なめにしなければなりません。
別の患者さんでは、副作用の心配がなく量を多めにしなければ効き目が出ないかもしれません。
そんな微妙な違いを、経験を通して学んだものがさじ加減です。
しかし結果的には、同じクスリを同じ患者さんに使っても、医師によって判断がまるで違ってしまうものであることがわかってきました。
子育てで自分の子供を素直にズタズタと育てられた人は「教育なんて簡単、親の背中をみて育つもの」などと気軽にいいます。
しかし、不幸にして子供が不良になってしまった人の場合は「子育てに失敗した、教育は難しい、どうしたらよいかわからない」などと考えます。
その違いは紙一重のものでしかありません。
わずかの違いで教育は簡単と感じたり、難しいと感じたりと、まるで逆の印象を持ってしまいます。
人間の経験なんてこんなものです。
クスリの場合も同じです。
医師があるクスリを患者さんに使って、ひどい副作用が出たとします。
それで患者さんが死にそうになったりしますと、その医師にとって、このクスリは怖いという印象だけが頭の中に強く残ります。
じつはそのような副作用はめったになく、たまたま特異体質の患者さんであっただけかもしれません。
でも、その医師にとっては重大事件であったわけです。
同じクスリを別の医師が使って、たまたま別の病院でさじを投げられた患者さんがみごとに治ってしまうこともあります。
それが近所で評判になったりしますと、その医師にとっては、すばらしいクスリという印象が強く残ることになります。
この2人の医師にそのクスリの評価を聞けば、まるで正反対の感想をいうに違いありません。
人間の経験には相当な片寄りがあるものなのです。
個人的な経験は当てにならないものと思ったほうが安全です。
つまり、クスリの評価は大変難しいのです。
高血圧はなぜ悪いのかまず、血圧について考えてみることにします。
血圧が上がる原因はいろいろあります。
年を取ると老化現象の1つとして、自然に血管は硬くなっていきます。
動脈硬化症という病気でも同じことです。
血管が硬くなると血液が体の隅々まで流れなくなりますから、とくに脳、心臓、腎臓などでこのようなことが起これば大変です。
大切な内臓への血行が悪くなり、命にかかわる事態となります。
そんなことにならないように、人間の体には、大切な臓器の血行が減ってくると血圧を少し上げて、それに対処する仕組みがあります。
ホースでも、水圧を上げれば遠くまで飛ぶようになりますが、それと同じ理屈です。
この調節機能のおかげで、内臓の血行は常に一定に保たれるのですが、血管の硬さが増すにつれて血圧もだんだん高くなっていきます。
血圧の高い状態が長く続けば、血管に負担がかかり、いっそう動脈硬化を促進するという悪循環に陥ります。
したがって、上がりすぎた血圧はクスリで下げなければなりませんが、本来は必要があって起こったものですから、無理に下げると全身に血液が回らなくなってしまいます。
高血圧症の治療は、かなりさじ加減の難しいものであることがおわかりいただけると思います。
多くの病気で同じことがいえますが、血圧が上がりやすい人にはなんらかの遺伝子異常があるのが普通です。
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